私はプラモデルを作り始めて40年以上になりますが、昔から模型製作の最大の障害が溶剤臭でした。
接着剤だけならまだしも問題は塗装で、特に吹き付けを行うようになってからは常に大きな問題となっています。
きれいに塗るためには吹き付け塗装が必須ですし。
大学に入ってからコンプレッサーを購入し、ボンベを気にせずに吹き付けられるようになりましたが、狭い下宿でもありいつでも塗れるわけではありませんでした。
就職後は狭い独身寮で塗装は難しい環境となり、結婚してからもまれに社宅のベランダで塗っていましたが、これでも家族の迷惑になるし、外で塗るのはいろいろと大変で嫌になってしまったわけです。
溶剤(油性)系塗料 真ん中モデルカラーはグンゼと同じ番定ながら塗料の質がよく、きれいに仕上がりました。残念ながら、ずいぶん前に消滅してしまいましたが。
そんなこんなで模型製作から遠ざかってしまいもう何十年にもなります。
私自身もあの臭いは苦手ですし、何よりも家族に評判が悪いのです。
自分は有機溶剤ガスマスクをすれば吸引を防げますが、周囲はそうはいきませんので。
狭い家の中ではなかなか難しいので、外でやるしかないですが近所迷惑になってしまいます。
一時タミヤの塗装ブースの導入も検討しましたが、結構高価でかなり場所を取りそうですし、それよりも臭いを周囲へ拡散してしまうことは同じですから、踏み切れませんでした。
望ましくは塗装ブース+排気ダクトなのでしょうが、臭気を拡散させるためにはダクト排出口は高所に設けなければならないので、一般家庭では難しいでしょう。
活性炭による除去は効果的ですが、すぐに破過してしまい、コストがかかりすぎます。また廃活性炭の廃棄も非常に大変と思います。
環境問題の高まりの中、この認識は全世界共通であり産業界では弱溶剤化、脱溶剤化が進んでいます。
家の外壁塗料も水性ですし、TOMIXやダイムラーベンツの塗装は水性塗料なんだとか?
2000年以降、発泡スチロールでよく侵されてしまうROCO社の模型鉄道の塗装もそうかもしれません。
他方、溶剤はシンナー遊びの原因ともされ、模型界でも長年の問題になっています。
これに対しては今の模型用塗料は確かトルエンフリーになっているはずです。
しかし臭いの強さは相変わらずであり、オタク的要素以外の模型趣味に対する最大のネガティブ要因と言えるでしょう。
この解決策である模型用水性塗料についてはグンゼのレペを皮切りにもう30年以上の歴史がありますが、溶剤系に完全に取って代われるだけのものがないのが現状です。
水性塗料 右端がデルタ・セラムコートです。 それは水性塗料には以下の問題があるからです。
1.乾きが極端に遅い。あるいは完全に乾かない。いつまでもべたべたする。(硬化しない)
2.吹き付けが難しい。
光沢はいつまでたっても乾かないし、つや消しはぶつぶつになってしまう。
また溶剤に比べ水は揮発しにくいため、流れてしまったり、膨れることもある。
3.塗膜が弱い。
コンパウンド仕上げを行うことが出来ない。
ムラの部分を耐水ペーパーで削ることが出来ない。
4.塗膜が溶剤に溶けない。よって塗装の上から接着剤が効かない。
5.溶剤系ほどではないが臭いがある。
アルコール系溶媒?特にタミヤアクリルは臭いが強い。
6.塗料が経年で劣化して使えなくなる。
溶剤系は硬化してもまた溶剤に溶解し使えるが、タミヤカラーは劣化するとアクリル溶剤では溶けない。
先日発見したのだが、劣化した塗料はグンゼの溶剤で溶かすことが出来、再使用できる。ただしこうなったら溶剤系になってしまうが。
7.色の種類が少ない、濁ったものばかりで原色がない。
タミヤカラー
特に1〜3が致命的な欠陥です。よって細部には使えますが溶剤系に取って代われないのが実情でした。
ところが昨年の夏、ひょんなことから手持ちのAFVキットを製作しようと思い、塗装技法を調べることとなりました。
AFVの塗装方法は他に比べて進化の著しい分野であり、10年前と比べると技法が大きく変化していますが、残念ながらこの間、私はこの世界から遠ざかっておりましたので、全くわからなかったのです。
いろいろ探した結果、「きたきつね」さんのHPで、ようやく初心者でも理解できる親切な説明に出会いました。
そしてそのときに画期的な塗料に出会いました。 それはトールペイント用のデルタセラムコートという水性アクリル塗料です。
用途から女性の方がむしろよく知っているかもしれませんね。
何がすごいと言って、この塗料は従来の水性アクリル塗料の重大な問題点のいくつかが解決されているのです。
以下、きたきつねさんのHPを参考に書きますと、
1.吹き付けが可能
2.乾燥がとても速く、べたつかない。
3.下地を侵さない。また上塗りしても下の塗料が溶けない。
4.溶剤は水。専用溶剤は殆ど不要。
5.無臭(ごく僅か臭いはあるが溶剤臭ではなく、絵の具の臭いである)
6.カラーバリエーションが豊富。300色あり。
7.安価 タミヤカラーの3〜4倍入って126円。
という今までの水性塗料にはなかった利点があるのです。
もちろんセラムコートも万能ではなく、残念ながら以下の大きな欠点があります。
1.つや消しで光沢が出ない。
2.塗膜が弱い。
従来の模型用水性アクリルよりも更に弱い。触っていると剥がれたり「てかって」しまう。
3.筆塗り、刷毛塗りが難しい
これは私が下手なだけかもしれませんが
4.吹き付けが難しい。(細吹きすると塗料でノズルが固まったり、詰まったりする)
固まったものは水には溶けないから、取り除く以外にはない。
これらの特徴を考えると、セラムに向くのはAFVと思われます。
それは
1.完全つや消しで光沢塗料がない
2.塗膜が弱いからマスキングテープには心配がある
(きたきつねさんによると使えるとのことだが)
3.完成後、触る機会が少ない
触ると色が剥がれたり光沢が出るので、模型鉄道のように触る機会の多いものには不向きでしょう。
からです。
模型鉄道でも触る機会の少ない、フィギュアやストラクチャーには向いていると思います。
特に模型用塗料には品揃えが貧弱な原色が豊富ですから、カラフルな民間人の塗装には最適と思います。
また広い面積はムラになりやすいですが、エナメル系張りに伸びるので、細かい塗装には実に塗りやすいと思います。
セラムの塗装法の具体例については、 私のつたない文章では表現し切れませんので、ぜひともきたきつねさんのNEWアクリル塗装術を参照してみてください。
左側メニューの「必殺!それなり塗装術」の中にあります。
私もNEWアクリル塗装術に従って(そのものずばりですね)塗ってみましたが、こんな感じになりました。
<下地> 上記の通り、セラムは食い付きが弱いので、プラの地肌に直接塗った場合、剥がれてやすいです。
そこでサーフェーサーを使って下塗りをします。
サーフェーサーはラッカー系しかないので、もったいないですが缶サフを使いました。
サーフェーサーをエアブラシで吹き付けると、ノズルが詰まりやすいのです。
ただしサフを塗っても剥がれやすいことに変わりはないので取り扱いは要注意です。
<陰> きたきつねさんの理論によると陰はつけたい部分だけでよいとのことです。私も賛成です。
模型誌などにあるように陰を全面的に塗った場合、全体が暗くなる傾向にあるし、塗料が無駄となってしまいます。
また、上塗り色に明暗をつける必要がなくなるので、作業の簡略化にもなります。
エアブラシを細吹きにし、陰をつけたい部分に吹きます。
エアブラシの性質からくぼみや角の下には塗料が回らない場合があるから注意が必要です。
すなわちそういう部分こそ陰を残したいからです。きちんと塗っておかないと後で下地が残ってしまいます。
エアブラシは均一に塗れるわけではなく、障害物があるときや反射などで意外なところに色が飛んでしまうことがあります。 特性をよく理解して使う必要がありますし、マスキングや筆塗りとの併用も必要になります。
陰の色はきたきつねさんに従い、Dark Burnt Umberを使いました。
なおPGにはグレイ系の下塗りを推奨している本もあります。
今回、2号戦車にはDBUを使ってみたが、やや赤っぽくなる傾向がありました。
この辺はいろいろ試してみないとわかりません。
<車体基本色>
これまた同理論によると明るめがよいとのことです。
セラムにはそのものずばりの色はありません(知らないだけかもしれませんが)ので調色しました。
DYはOliveYellowとButter Creamを混ぜて作りました。
PGは最初、HippoGreyに黒を加えましたが、緑っぽくなってFeldgrauのようになってしまったので、ドライブラシ用のCape CodBlueにBlackを加えPhthalo Blueを数滴たらし作りました。
DYは塗ったときには白っぽいと感じましたが、後にDark BurntUmberでウォッシングを行ったところ、ちょうどいい感じになりました。
PGはDBUでウォッシングをしたらやや暗くなってしまったので、もう少し明るめにした方がよいかもしれません。<迷彩色>
これもきたきつねさんに従い、DGはMistralにOliveGreenを混ぜて作りました。
しかし、やや鮮やか過ぎる気もするので次回はOliveGreenをもう少し増やす予定です。
RBはMallonForceを使いました。こちらはいい色だと思います。
作品ページにも書きましたが、ともかく細吹きに難儀しました。
迷彩など何度もやり直す羽目となりました。
しかし原因はコンプレッサーの圧力が高すぎたことで、減圧弁を入れてからは調子よくなりました。
そうは言っても、塗料が固化しやすいので細吹きには適しませんね。 吹いては詰まり、掃除するの繰り返しで疲れましたし、小スケールやミラーウェーブのような細吹きはちょっと難しいと思います。
セラムはどちらかというと1/35に適すような気がしました。
<ウォッシング>
きたきつねさん通りでDBUをペンチングソルベントで大幅に薄めて使います。
水性なので水でも薄めることは可能ですが、こちらのほうがきれいに塗れるそうです。
エナメル系に比べて圧倒的に乾きが早いこと、艶がばっちり消えることはすごくいいと思います。
ただし、塗料が完全に溶けきらず、粒が残ってしまうことと、少々赤っぽいのが気になりました。
粒はメッシュでろ過すればよいと思います。
東洋濾紙の5Bでろ過しましたが、色も落ちてしまいました。(笑) 今後、もう少し工夫してみたいです。
ペンチングソルベント これで希釈するときれいに塗れます。<仕上げ>
キャタピラはCharcoalです。これはいい色ですね。
ゴムはつや消しの黒ではおもちゃっぽくなってしまうそうなので、グレー系です。
U号戦車の記事の通り、PGでは黒目のグレーとしました。
キャタピラの接地面や工具類はグンゼのアイアンを使いました。これは乾いてから擦ると光沢が出ます。いい感じ。 墨入れは薄めたDBUを、錆流れはこれまたきたきつねさん通りで、100円ペンを使いました。
ただし、私の使ったペンは色が薄い割には水では落ちなかったので工夫が必要です。
色鉛筆とか、使ってみてもよいでしょう。
それとタミヤのウェザリングマスターです。 これはやり過ぎないように軽めに仕上げました。
まだまだ諸先輩方には遠く及びませんが、これからも楽しみながら作って行きたいと思っております。
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